フィールドワークとリモートワークがつながる未来?
報告者は最近十数年ほどの間に、地形学や地考古学などの分野で、地上観測(レーザ測量など)や空中観測(無人航空機など)を用いた3次元地形計測などのフィールドワークを実施している。本稿では、フィールドワークに対するコロナ禍の功罪は何だったのかを振り返る。
新型コロナウイルス感染拡大の前、2019年までは、日本国内はもとより、世界各地での現地調査・研究のため、飛行機に搭乗する機会も多かった。しかし、コロナ禍の拡大により、海外調査は多くのケースで軒並み消滅した。こうした海外調査の実質的な中断により、国際線に搭乗する機会がなくなった。一方で、国内各地の調査は行ける範囲で継続し、たとえば北海道内での新たな調査地を含め、国内調査の機会は増加した。あわせて国内線の搭乗回数も、コロナ禍初期の一時的な減少の後にはすぐに回復し、結果としてコロナ禍前よりも増加した。
コロナ禍が収束に向かう頃においては、まず海外調査が復活した。2022年夏のスイス調査が2年半ぶりの海外出張となり、その後、調査や国際会議等により、およそ1、2カ月に一度の頻度で海外出張が続いている。海外出張における航空券は燃料価格の高騰と円安が重なり、コストが重くのしかかる。蛇足だが、円安の影響で機材やソフトウェアの価格も、人件費も高騰しており、これまで通りの研究費では同じような研究活動が難しくなってきている。それでも1次データを取得するための現地調査は必要不可欠であることは、フィールドワーカーであれば自明のことであろう。たとえば無人航空機を用いた観測にも現地に行く必要があるし、あるいはそうした空中観測用の機材の使用が制約される場合も、地上観測によるデータ取得の方法が多様化してきており、自らの足で現場に行くことの重要度が高まっている。また、学会などの会議も、対面であることの価値が再認識され、自分の身体を現場なり会議の場に運ぶことの重要性が改めて体感させられる。一方で、コロナ禍で増加した国内調査も減ることはなく、結果的に調査・出張スケジュールが過密化している。
一方、リモートワークの拡大により、会議、授業、ゼミ等のオンラインからの参加が可能となり、それらのスケジューリングの融通性が高まった。すなわち、現地調査学会等での出張時でも、インターネットにさえつながれば、どこにいても会議や授業、ゼミに参加できるようにもなった(図1)。実際、現場にいながら、あるいは移動中においても、ゼミ発表を聴いたり議論したりするということが容易になり、場所にとらわれない点で利便性は明らかに向上した(本報告会でのオンライン発表も、移動中の空港から行っていた)。
しかし、過密日程のなかでさらに仕事の濃度を上げていることは、単純に良い側面だけでもないだろう。時にはリモートでも「出ない」選択もすべきかもしれない。
フィールドワークの未来を考えると、現地観測も遠隔操作(画像・3D観測、無人航空機)で自動化できるようになることが見込まれる。また、仮想現実(VR)などの進展により、現場の様子を現場にいかずともある程度、または現場以上に観察できる仕組みができつつある。たとえばVR地形巡検は、データの解像度にも依存するが、現実に踏査できないような場所の観察を可能とする。それでも、身体を現場に漬け込む必要性を報告者は感じている。空間・時間を自由に行き来するヴァーチャルと、身体を通して感じるリアルとの相互作用が、今後のフィールドワークの発展につながるものと考える。一期一会のリアルを大切にしつつ、現場とリモートの適度なバランスを見定めていきたい。