世界のフィールドから From "Fields" around the World

2026年3月号

雨とお茶の記憶

髙橋瑞季 (東京大学大学院教育学研究科)

専門:教育学、フィールド:バングラデシュ

2年ほど、大学院を休学してインドのコルカタで働いていた時期がある。その間、仕事の合間に現地の同僚がお茶を淹れてくれる機会が何度かあった。日本では「チャイ」として知られる、スパイスの効いた甘いミルクティーである。熱い紅茶をちびちびと飲みながら、少し肩の力を抜いて雑談をするその時間が、私は何より好きだった。

雨季が終わり切っておらず、重そうな黒い雲がどんよりと立ち込めていたある日に飲んだお茶を今でもよく覚えている。「こういう気持ちの落ち込む日には、温かいお茶が必要だよ」と口々に言いながら、熱い紅茶のカップを嬉しそうに手で包んでいたインド人の同僚たちを横目に、不思議な気持ちで紅茶を啜った。

それから何カ月経った頃か、仕事の契約期間を終えて大学院に復学した私は、今度は研究のために、バングラデシュのシレットという地域を訪れた。日本ではあまり知られていないが、茶農園が多く立地する地域だ。紅茶の名産地として有名なインドのアッサムに比較的近い地域と言えば分かりやすいだろうか。私が調査のために訪問した学校のすぐ隣にも茶農園が広がっていた。

このシレットという地域は、バングラデシュの中でも雨が多いことでも有名なのだそうだ。私が調査で訪れた時も、朝から強い雨が降っていた。初めてのインタビュー調査を前に緊張した心を、雨がさらに重くした。

そんな私を見かねたのか、インタビューを手伝ってくれていた現地の大学生が調査開始前に近所の露店に連れていってくれた。頼んだのはよくあるミルクティー。一口含むと、甘さと温かさがいっぱいに広がって、身体のこわばりが解けていくのが分かった。ああ、確かに、こんな雨の日には、熱いお茶が必要だね。記憶の中のコルカタの同僚たちに、心の中で相槌を打った。

撮影フィールド

バングラデシュ・シレット