世界のフィールドから From "Fields" around the World

2026年6月号

トンビが空に輪を描いて

北山 遼 (北海道大学大学院地球環境科学研究院)

専門:霊長類学・社会生態学・ゲノム科学、フィールド:ウガンダ/ブシェニ県・日本/長野県

雨季真っ盛りの11月、スコールの合間の空にトンビ(トビ)が輪を描いている。ウガンダ南西部に暮らすルニャンコレの人々は、このトンビのことを「エビランガセネネ」と呼ぶ。「エビランガ」は「告げる」、「セネネ」は「バッタ」を意味するそうだ。つまり、エビランガセネネとは「バッタの訪れを告げる鳥」なのである。ちょうどこの鳥が空を飛び回る季節にバッタが大量発生するからだ。そして、そのバッタは大変美味いのである。村人たちは野原を駆け回り、私の調査アシスタントたちも、サルの調査の傍らセネネを袋に詰めている。

調理法はいたってシンプルだ。少量の水だけを入れた鍋に大量のセネネを放り込み、そこから滲み出た油でからりと揚げる。かっぱえびせんに似た味がして美味しい。ウガンダの人々はセネネを調理する際、翅(はね)も脚もきれいに取り除く。日本のイナゴ料理よりも丁寧な仕事である。重要なタンパク源であるだけでなく、それだけ美味いのだろう。トンビの名前にバッタがしゃしゃり出てくるほどに。最初にトンビのことをエビランガセネネと呼んだ人も、それに賛同して続いた人々も、同じように美味しいと感じていたに違いない。もし時を超えて一緒に食事ができたなら、きっと気が合っただろう。言葉に宿る生活の歴史に耳を傾けてみる。

とある日、調査アシスタントとの会話の中でセネネの話になった。「はるかはセネネは好きか?」と訊かれたので、「好きだよ」と返したところ、翌日、袋いっぱいのセネネを持って来てくれた。全部をひとりで揚げて食べるには少し多い量だ。せっかくだからと佃煮を作ってみた。味はそのまま、イナゴの佃煮だった。うん、美味い。セネネの佃煮を具にしたおにぎりを、ランチボックス代わりのビニール袋に入れて森を歩く。今日も樹冠の隙間の空に、エビランガセネネが輪を描く。輪のかたちは昔と同じだろうか。セネネの美味しさも昔のままだろうか。

撮影フィールド

ウガンダ共和国・ブシェニ県・カリンズ森林