世界のフィールドから From "Fields" around the World

2026年8月号

シマフクロウの気配と隠蔽

韓智仁 (大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程/春風社編集部)

専門:文化人類学・科学技術社会論、フィールド:日本(北海道)

澄んだ空の下、雲を被る連山。エゾマツやミズナラなどの林。手前には水草の浮いた水面と、スゲにササの原。GeoGuessrの熟練プレイヤーなら、この写真が冬迫る北海道の知床で撮影されたと見抜くだろう。ここに訪れたことのある人なら、高架木道からの知床五湖「一湖」の眺めだと思い出すかもしれない。

この写真を選んだ私の意図は、これらの「写真から見えるもの」をちょっとだけ裏切る。

私は人間動物関係や科学技術への関心から、絶滅危惧種の鳥シマフクロウの保全を行う人々へインタビューや参与観察をしている。通常フォトエッセイでは、鳥の姿か保全活動の様子を捉えた1枚が期待されよう。だが国による本種の保護増殖事業は、「隠して守る」という方針をとっており、公式の姿勢として、シマフクロウの活き活きとした姿を晒すネイチャーフォトは避けられる。生息場所の情報を公開するのはご法度だ。

自分のフィールド(ワーク)を表す写真の選択にあたって、私は悩んだ。シマフクロウが写っていないのは当然として、調査協力者と同行した場所や、「あの辺にシマフクロウがいるらしい」と耳にした場所などの、生息の痕跡が写り込む恐れのある地点で撮った写真は躊躇された。

豊かな生態系に恵まれる知床は、北海道で最もシマフクロウの個体密度が高い地域である。だが知床五湖は観光地として開かれており来訪者も多く、この写真が秘密の生息地を暴露するリスクは低い。繰り返すがこの写真に写るのは、空、雲、山、林、湖に草っ原だけだ。

写真は何かを写すものであり、同時に何かを写さないものでもある。シマフクロウも保全関係者も、この写真にはいない。でも、この鳥は近くにいるかもしれない。このエッセイで私は、この鳥の気配と隠蔽をめぐる感性的な経験を共有してみたかった。

万一、目ざとい読者が私の見落としたシマフクロウを写真の中で見つけてしまったら? でもそれも、この話を妨げるものではないはずだ。

撮影フィールド

日本・北海道