世界のフィールドから From "Fields" around the World

2026年10月号

コーヒーの味、街のかたち

北村秀樹 (シンガポール国立大学人文社会科学部)

専門:人類学;社会学、フィールド:マレーシア;クウェート

修士課程で初めてマレーシアに住んだ頃、コーヒーといえば甘い練乳入りのコピが日常の味だった。私が通っていた大学は、クアラルンプールから南へ約30kmのスランゴール州バンギにあった。そこでは、しゃれたカフェはもちろん、無糖のラテを飲める場所なんて隣町のスターバックスくらいしかなかった。

それからシンガポールで数年生活した後、再び戻ってきたクアラルンプールで目にしたのは、様変わりした街の風景である。マレーシア人の嗜好の変化なのか、日本や韓国の都市を思わせる小洒落たカフェが次々と生まれ、食の選択肢は格段に広がっていた。個人的には、甘くないコーヒーの選択肢が増えたことは小さな喜びではあるが、その一方で、街の景色はどこか均質になりつつあるようにも感じられた。とりわけ目につくのは、ショッピングモールや高層コンドミニアムの建設ラッシュである。修士課程の頃からお世話になっている調査協力者によると、丘の上に広がる緑豊かで閑静な住宅地でさえ、住民の反対があるなかでコンドミニアム建設が進んでいるという。

都市化の波のなかで取り残されたコロニアル建築はあまりメンテナンスされているとは言えず、そうした歴史的建築を生かした街づくりがされているペナン州ジョージタウンや、隣国シンガポールとはどこか様相が異なる。公園のベンチでテイクアウトしたアイスラテを飲みながら眺めるクアラルンプールの都市風景は壮観ではあるが、その変化の速さにどこか戸惑いも覚える。これからこの街はどのような表情を見せていくのだろうか。

最後に余談ではあるが、当時の私にとってコピCコソン(※)でさえ、ラテの代わりにはならなかった。

(※)「コピCコソン」は、マレーシアやシンガポールのコピティアム(現地の喫茶店兼食堂)で用いられる注文表現で、「コピC」は無糖練乳入りのコーヒー、「コソン」は砂糖なしを意味する。

撮影フィールド

マレーシア・クアラルンプール