2025年8月号

カメラ・ぬい撮り・バーザール ―イランの喧騒―

永井慧 (東京外国語大学大学院博士後期課程)

専門:ペルシア語言語学、フィールド:イラン

私の専門はペルシア語、主にイランで話される言語だ。研究対象にしている前置詞の用例を集めつつイラン国内を観光するため、私は2023年2月~3月にかけて、約1か月間イランに滞在した。

この写真は、そんな滞在中に訪れたエスファハーンのバーザールで撮影したものである。イランと言えば、イマーム広場やペルセポリスなど多くの美しい場所が存在するが、今回は、あえて美しい景観ではなく、活気にあふれる写真を選んだ。撮影時期は、新年のお祭り・ノウルーズに向けて、多くのイラン人がバーザールで買い物をしていたため、特ににぎわっていた。バーザールでは値切り交渉の声、客引きの声、世間話の声などが聞こえてくる。私はイランのそこら中で見られるこの喧騒がとても好きだ。

イランについて好きなところのもう一つが、人びとの写真撮影に対する高いモチベーションである。カメラを持って歩いていると「自分を撮ってほしい!」と声をかけられることも多い。調査の合間には、小さなぬいぐるみと風景を一緒に撮ることがあった(そうすることで、それが自身の撮った写真と一目でわかるほか、風景のスケール感を伝える助けにもなる)。イランにはこの「ぬい撮り」のような文化はないが、あるタクシー運転手はぬい撮りの意図を察し、全力で協力してくれた。
老若男女問わず写真に対して真剣なのが私にとっては少し新鮮で、本当に楽しい人たちだな、と思う(疲れてしまうこともあるが)。

2025年6月に起きたイランとイスラエルの軍事衝突以降、イランは一時、外務省による危険情報においてレベル4(「退避勧告」)となり、簡単には渡航できなくなってしまった(7月28日現在、レベル3(「渡航中止勧告」)に下がったが、依然として渡航は難しい)。現在は停戦状態にあるが、多くのイラン人が戦争の再開や現状に不安を抱いている。

イランの人々が安心して暮らせる日が来ることを、心から願っている。

撮影フィールド

イラン・エスファハーン州

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