
『みんな、ここを通った』~戦争・交易・巡礼から見るヒマラヤ交易路の盛衰史
ネパール北中部の要衝・ラスワを経由してヒマラヤを南北に貫くキロン-ラスワ道路は、古来よりカトマンズ盆地と西チベットのキロン地方を繋ぐ幹線道として、平時にはキャラバンや巡礼者が往来し、有事には軍用路として機能してきた。ネパールの歴代王朝の政治・経済を支えたこの道路は、時代の趨勢により20世紀には幹線的機能を大幅に低下させたものの、今世紀に入って中国主導の巨大経済圏構想・一帯一路の基幹インフラとして復活し、再び脚光を浴びることになった。本企画では、多分野にわたる学際的な見地から、ひとつの交易路の歴史的盛衰を多角的に検討することで、辺境地域の近代化に対する単純な開発礼賛や、その対極をなす伝統社会偏重論などの近視眼的な議論を退けつつ、近代国家による間地域的干渉関係の渦中にある国境地帯に新たな角度から光を当てる。