フィールドワーカーから寄せられた地域別の現地情報です(2010-2015年頃)
レバノン
1.外務省ホームページ 各国・地域情勢
レバノン: http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/lebanon/index.html
2.旅行情報(空港、ホテル、換金/TC、治安など)
民間空港はベイルート国際空港(http://www.beirutairport.gov.lb/)のみ。
日本からレバノンへは、ヨーロッパ(パリ、フランクフルト、アムステルダムなど)あるいは中東(ドバイ、イスタンブル)を経由して赴くのが一般的。これよりもマイナーなものとして、たとえばクアラルンプール経由のルートがある。
通貨:
米ドルとレバノン・ポンドを併用する。両者のあいだは固定レートで、1米ドルが1500ポンドに相当する。
ATM:
全国各地にあるので、海外のATMからでも引き出せるキャッシュカード(Plus提携のものなど)を持っておけば困らないだろう。たとえば三井住友銀行のもの。イーバンクのものは使えなかった。
T/C:
レバノンでは使えないと考えておいたほうがよい。
治安:
基本的にはよい。夜間の外出も問題ない。ただし、女性が単独で行動する場合はこの限りではないと思われる。また、政変等の急な事態に備え、常に1000米ドル程度(これくらいあれば、隣国への避難が可能)を携帯するのが望ましいだろう。
写真撮影:
レバノン南部の地方部、ベイルートの南郊外ではよく確認したほうがよい。ベイルート市内であっても、思わぬところで撮影をとがめられることがあるので、その場合にはすぐに撮影を中止したほうがよい。
3.医療情報
予防接種:
基本的には必要ない。慎重を期して、破傷風、肝炎(A、B型)の予防接種をおこなうとよいかもしれない。狂犬病については、研究環境にもよるが、必須ではない。野犬は、ベイルートにはほとんどいない。
病院:
医療水準は高いので、問題はないと思われる。アメリカン大学病院(AUH)がもっともよいとされている。ただし、歯科関連の治療は日本で済ませたほうがよいかもしれない。大使館にも医務官はいるが、在留邦人へのサービスはおこなっていない。
薬局:
病院と同様に充実しており、問題はないだろう。
水:
煮沸するかミネラルウォーターを買ったほうがよいだろう。
4.通信環境
インターネットカフェに相当する店舗はかなり普及している。ただし、日本語の利用は場合による(田舎では使えないと考えたほうがよいだろう)。ワイヤレスLANのサービスをおこなっているカフェやレストランもあり、この場合はノートパソコンを持参してインターネットに接続できる。
携帯電話はよく普及しており、電話機本体とSIMカードを購入して利用可能。
5.ビザ、調査許可
15日あるいは1ヶ月有効のシングルの観光ビザは空港でも取得できる。それぞれ、17米ドル、30米ドルほどが必要なので、あらかじめ用意しておくとよい。
ビザの延長は公安(フランス大使館のすぐ南にある)でおこなう。顔写真(シャムスィーイェ shamsīye)、パスポート(顔写真のあるページおよびビザのスタンプが押してあるページ)のコピーを複数部用意してから行くと手続きがスムーズである。
「調査許可」というものがそもそも存在しているようには思われない。公安で、ビザのカテゴリと料金を一覧にしたプレートを目にしたことがあったが、調査・研究にかかわりそうなカテゴリは記載されてなかった。
レバノン政府としては、外国人による国内での調査よりも、不法就労のほうに敏感であると思われる。ビザの延長を何度もおこなって滞在していると、公安から調査に来ることもある。その場合であっても、十分な収入があることがわかれば問題にはされない。もしレバノン国内での非就労を証明する必要があるときは、司法書士(カーティブ・ル=アドル)の事務所へ行き、書類を作成してもらうとよい。
6.カウンターパート、来日経験のある研究者
- レバノン国内を拠点とする研究者として
・マスウード・ダーヘル(レバノン大学、レバノン史、多くの来日経験あり)
・アブダッラー・サイード(レバノン大学、レバノン史、来日経験あり)
・ギタ・ホウラーニー(ノートル・ダム大学、移民研究、来日経験あり)
・サーリー・ハナフィー(AUB、来日経験あり) - なお、多くのレバノン系研究者が、アメリカやヨーロッパ諸国で学位を取り、レバノン国外で教職に就いていることも多い。そうした人々のなかには、頻繁にレバノンと行ききをしている場合もあるので、レバノン国内での研究遂行においてもよい協力が得られることもある。したがって、レバノン国外を拠点とする研究者にも広い目配りをするとよい。そのような人物として
・アーイダ・カナファーニー=ザハル(フランス、CNRS、社会人類学、来日経験あり)
・ウサーマ・マクディスィー(米国、ライス大学、レバノン史、来日経験あり)
7.大学図書館、アーカイブス、本屋
中東研究日本センター(http://www.aa.tufs.ac.jp/fsc/overseas_jacmes.html)(JaCMES):
図書室には、工具書、レバノンおよび中東関連の書籍(人文社会科学が中心)を備えられている。
ベイルート・アメリカン大学(AUB):
ジャフェット図書館(Jaffet Library)が総合図書館に相当する。かつてはパスポートを持参すれば入館させてもらえたが、近年、部外者に対するアクセスが困難になってきており、日本の所属機関からの紹介状がないと利用させてもらえない。この図書館を自由に利用するには、同大学に所属するか、図書館の年間利用証(数百ドルが必要)を作るしかないのではないか。蔵書はそれなりによいが、参考図書以外はすべて閉架式。学位論文(学士・修士)は、提出後2年を過ぎたものは複写可。
フランス近東研究所(http://www.ifporient.org/)(Institut français du Proche-Orient / IFPO):
現代研究図書室(http://www.ifporient.org/node/58)(Bibliothèque Études Contemporaines)、考古学図書室(http://www.ifporient.org/node/51)(Bibliothèque Archéologie)、地図図書室(http://www.ifporient.org/node/53)(Cartothèque)に分かれている。初回利用時に簡単な登録を済ませれば利用可能。現代研究図書室は、社会科学および都市研究(建築・都市計画・地理学など)の英仏アラビア語書籍・学術雑誌を中心にかなりきめ細かく資料の収集をおこなっており、複写も可能。司書が有能だったり、目録の編纂にも力を入れていたり、全体的に使いやすい図書室である。フランスの大学に提出された、レバノンをテーマとする学位論文を収集しており、チェックするとよいだろう(複写不可)。同研究所はシリアのダマスカス、ヨルダンのアンマンにもあり、蔵書データベースを共有し、ベイルートに所蔵してない資料は取りよせてもらえる。同じ敷地内にカフェ/レストランがあるのも便利。2007年9月現在、蔵書のデータベース検索は公開されてないが、司書が操作してくれる(システム上、素人では扱えない)。地図図書室が所蔵する地図の目録として、次のものが出版されている。
・Cartographie de Beyrouth. Observatoire de recherche sur Beyrouth et sa reconstruction, Supplément à la Lettre d'information 3. Beyrouth: Centre d'études et de recherches sur le Moyen-Orient contemporain, 1995.
・Cartothèque du CERMOC 1: Liban. Document 5. Beyrouth: Centre d'études et de recherches sur le Moyen-Orient contemporain, 2000.
ドイツ東洋学研究所(http://www.orient-institut.org/index.aspx?pageid=926)(Orient Institut):
初回利用時に簡単な登録(顔写真が必要)を済ませ、年間利用証を作成する。社会科学よりは人文科学(イスラーム学など)に強いと思われる。閲覧室の参考図書が非常に充実している。/pr>
サン=ジョセフ大学(USJ):
キャンパスがベイルート市内に複数あり、それぞれに図書室があるので、あらかじめ確認したほうがよい。社会学・人類学の図書室は人文科学キャンパス(フランス大使館すぐ北)にある。AUBと異なり、博士課程があるので、博士論文も閲覧できる(複写不可)。
レバノン大学:
キャンパスがベイルート市内、また国内各地に複数あり、それぞれに図書室があるので、あらかじめ確認したほうがよい。とくに学位論文は、貴重なものが所蔵されている可能性が高いが、使い勝手の悪さにより、日本人研究者への紹介が不十分である。
ノートル・ダム大学(NDU):
レバノン移民研究所(http://www.ndu.edu.lb/Lerc/Index.htm)図書室には、レバノン移民に関する英仏西アラビア語の書籍と学位論文が所蔵されている。
国立文書館(http://www.can.gov.lb/)(Archives Nationales):
初回利用時に身分や研究テーマなどを書類に記入し、登録が必要。資料のカタログ化があまりなされておらず、あまり使いやすくはない。筆者は地図を探してみたが、丸められたまま棚や床に放置されている状態であった。レバノンで出版された90年代後半以降の書籍に関してはすべて納本されているとのことだが、どの程度「すべて」なのかは未確認。
他の施設については、社会科学関連にかぎられるが、次の書物を参照。Guide des centres de recherche en sciences sociales au Liban (1975-1992). Les Cahiers du CERMOC 11. Beyrouth: Centre d'études et de recherches sur le Moyen-Orient contemporain, 1995.
【定期刊行物】
・al-Abḥāth:ベイルート・アメリカン大学の学術年報。
・Archaeology and History in Lebanon (The Lebanese Freinds of the National Museum, London): National Museum News の後継誌。
Bāḥithāt (Lebanese Association of Women Researchers, 1994- ):レバノンを含め、アラブ世界の女性に関するアラビア語の論考(英仏語によるアブストラクト有)を収録。
・The Beirut review: A Journal on Lebanon and the Middle East (Lebanese Center for Policy Studies, Beirut):研究論文、書評、資料(政治家の演説、条約文など)、ビブリオグラフィー(新刊書籍、論文)、クロノロジーが毎号収録されている。
・Les Cahiers de L'Orient: Revue d'étude et de réflexion sur le monde arabe et musulman (Paris):政治動向を中心として、広く社会や歴史に関する論考を収録。レバノンを特集した号としては24号(Le trait syro-libanais de Taf deux ans après)、32/33号(Le chantier libanais)、52号(Les paradoxes libanais)、64号(Les défis libanais)がある。特集ではない場合でもレバノンを扱った論考が比較的多い。
・CHRONOS (Université de Balamand, Lebanon, 1998- ):バラマンド大学が発行する歴史学雑誌。
・Dirāsāt Lubnānīya (Lebanese Ministry of Information, 1996- ):レバノンの経済・社会問題に関する様々な論考を収録。
・HANNON:レバノン大学が発行する地理学雑誌。
・Lebanese Scientific Journal
・Middle East Economic Papers (Economic Research Institute, AUB)
・al-Rā’ida (The Institute for Women’s Studies in the Arab World, LAU, Beirut):一部がオンライン(http://www.lau.edu.lb/centers-institutes/iwsaw/raida.html)で読める。
・Travaux et Jours (USJ, Beirut):人文社会自然科学の多様な分野に渡る論文が掲載されている。第50巻(1974年)は、25−49巻までの索引を収録。
【書店、書籍購入】
・`Ayyād(古書)ハムラ
・Bible Society(新刊)ハムラ、ダウンタウン。聖書関連。
・Bīsān(新刊・古書)ハムラ
・al-Furāt(新刊)ハムラ
・Khayyāt(古書)ラス・ベイルート
・Librairie Antoine(新刊)ハムラ、アシュラフィーエ、スィンヌル・フィーユ
・Librairie Borj(新刊)ダウンタウン
・Librairie Internationale(新刊)クレマンソー
・Librairie du Liban(新刊)ハムラ、ダウンタウン。辞事典の出版もおこなっており、購入可能。
・Librairie Orientale(新刊)ハムラ、アシュラフィーエ(ベイルートおよびダマスカスのフランス近東研究所の出版物を扱っているところが特徴)
・Malik Bookshop(新刊)ラス・ベイルート(ベイルート・アメリカン大学正門近く):同じビルの上階に古書部門がある。
・Ras Beirut Bookshop(新刊)ラス・ベイルート。昔のAUBの出版物が残っていることがある。
・Virgin Megastore(新刊)ダウンタウン、アシュラフィーエ、ベイルート国際空港
・ベイルート国際展示場(http://www.bielcenter.com/)では、ブックフェアが毎年開催される。
・ベイルート・アメリカン大学
・ドイツ東洋学研究所:同研究所の出版物(http://www.ifporient.org/node/64)を購入可能。
・フランス近東研究所:同研究所の出版物を購入可能。学割あり。
8.機材・資料の持ち出し、持ち込み
DHL:信頼性・利便性を考えるならもっともよい選択ではないだろうか。ただし、レバノンから日本へ大量に送る場合、また、CDやDVDを送る場合、内容物のリストを求められる場合があるので、事前に確認するとよい。
郵便局(リバン・ポスト、Liban Post):信頼性は問題ない。
上記以外の運送会社もあるが、荷物は、到着後日本の空港か港で留めおかれるなど、それぞれ条件が異なるので、個々に確認したほうがよい。また、船便は、通関の手続きが面倒のようなので、時間がある場合に限られるだろう。
9.調査グッズの現地調達
特にこだわりがなければ、コンピュータ関連の機器など、一通りのものはベイルートでそろうのではないか。
フィルムの供給は難しくはなっているが、基本的なものは入手できる。リバーサル・フィルムは、店舗が限られるが、なんとかなるだろう。Nubar(ハムラ)がおすすめ。Middle East Photo Center(アシュラフィーイェ)も、店主に尋ねるといろいろ協力してくれるかもしれない。二眼レフの修理ができたことがある。
10.日本人研究者情報/これまでの調査、科研
内戦の影響もあり、日本人による研究はきわめて限られている。
【書誌】
・ABI-FADEL, Michel, Les villes, les villages et les familles du Liban: index bibliographique. Beyrouth: Archives Nationales, 2002. レバノン各地の都市および村落を扱った文献の書誌情報(学位論文を含む)を収録。地方小都市及び村落部の情報がとくに有用。本書を利用すると、地方の研究は学位論文まで視野に入れないと文献が集まらないことを実感する。p.102-104は、書誌の書誌。ほかに、地方で出版された定期刊行物のリスト、地方自治体名一覧(完全ではない)も便利。
・ABUKHALIL, As`ad, Historical Dictionary of Lebanon. Asian Historical Dictionaries 30. Lanham, Md. and London: The Scarecrow Press, 1998. 巻末に文献案内およびビブリオグラフィーを収録。見出しは次の通り。[総論と史料/歴史(1800年まで)/歴史(1800−1861)/旅行者の記述/歴史と政治(1861−1975)/レバノン内戦(1975−1990)/回想録と伝記/文化と文学/経済/社会と宗派/文献目録/事典/ドキュメント/定期刊行物]
・FANDI, Talal and Ziyad ABI-SHAKRA, The Druze Heritage: An Annotated Bibliography. Amman: The Royal Institute for Inter-Faith Studies, 2001. ドルーズ派関連文献。
・SADAKA, Linda and Nawaf SALAM(compiled), The Civil War in Lebanon 1975-1976: A Bibliographic Guide. Papers of The Center for Arab and Middle East Studies 1. Beirut: American University of Beirut, 1982.
・SALIBA, Maurice(ed.), Index Libanicus: Analytical Survey of Publications in European Languages on Lebanon. Jounieh: Paulist Press, 1979.
・SALIBA, Maurice(ed.), Index Libanicus II: Thesis Submitted at Universities in Lebanon (1906-1980). Beirut: National Archives Center, 1982.
・SALIBA, Maurice(ed.), Index Libanicus III: Répertoire analytique des thèses de doctorat soutenues en français par les libanais ou sur le Liban(1900-1985). Antlias: La Maison LIBANICUS, 1987.
・SWEET, Louise W.(ed.), The Central Middle East: A Handbook of Anthropology and Published Research on the Nile Valley, the Arab Levant, Southern Mesopotamia, the Arabian Peninsula, and Israel. New Haven: Human Relations Area Files Press, 1971.
・TABAR, Paul, Lebanese Migrants in Australia and New Zealand: An Annotated Bibliography. Louaize, Lebanon: Notre Dame University Press, 2004.
11.そのほか、各地域情報など
アラビア語の長期・短期コースは、以下の機関で開講されている。
- ベイルート・アメリカン大学(AUB):
アラブ・中東研究所(http://www.aub.edu.lb/fas/cames/Pages/index.aspx)、アラビア語・近東言語学部(http://www.aub.edu.lb/fas/arabic/Pages/index.aspx)を参照。 - レバニーズ・アメリカン大学(http://www.lau.edu.lb/centers-institutes/sinarc/)(Lebanese American University / LAU)
- フランス文化センター(http://www.ccf-liban.org/default.php?aid=2)(Centre culturel français / CCF)
- ロシア文化センター(Russian Cultural Center):個人レッスンも設けており、ここに挙げたなかではもっとも自由に予定を組むことができる。